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EVバッテリー冷却:課題とソリューション

authorIcon 2022年4月02日、Stéphane Melançon topicIcon バッテリー&EV

タイトル写真:冷却板の提供:Lucid Motors

今日の技術は、電気自動車による熱エネルギーのより効率的な利用と制御を可能にしています。温度管理は、バッテリー、HVACシステム(暖房・換気・空調)、電気モーター、インバーターなどの構成部品間で最適化されています。これは、バッテリーの熱マネジメントシステム(BTMS)と呼ばれるものを使用して行います。 

例えば、モーターが発熱すると、その熱をキャビンやバッテリーに誘導して、エネルギーを最大限に活用することができます。

電気自動車のバッテリーに関して、製造上の課題と解決策をより理解するために、以下のテーマについて見て行きましょう。

EVバッテリー冷却法

EVバッテリーには空気冷却液体冷却があります。液体冷却は、最新の冷却要件を満たす際に選択される方法です。両方の方法について違いを理解しましょう。

空気冷却

空気冷却は空気を使ってバッテリーを冷却するもので、パッシブ型とアクティブ型があります。 

パッシブ空気冷却は、バッテリーを冷却または加熱するために、屋外やキャビンからの空気を使用します。通常、熱放散は数百ワットに制限されます。 

アクティブ空気冷却は、空気の温度を制御するための蒸発器とヒーターを含むエアコンからの空気を使用します。通常、冷却は1kWに制限されており、キャビンの冷却や加熱に使用できます。

アクティブ冷却はより複雑で高価ですが、推進力や充電電力などの性能が向上します。また、バッテリーの熱を取り除く効果も高まりますが、バッテリーの温度を制御するためにより多くのエネルギーを必要とします。アクティブ冷却とパッシブ冷却の違いとして、パッシブ冷却 では動作に外部システムを必要としないのに対し、アクティブ冷却 ではファン、ヒートシンク、冷却液(液体冷却の場合)などの外部デバイスまたはシステムを使用してバッテリーを冷却することがあります。  

液体冷却

液体冷却は最も一般的な冷却技術です。バッテリーの冷却には、水や冷媒、エチレングリコールなどの液体冷却剤を使用します。液体は、チューブ、冷却板、またはセルを囲むその他の構成部品を通過し、熱をラジエーターや熱交換器などの別の場所に運びます。液体を運ぶ構成部品は、セルと液体冷却剤との間で発生する直接的な電気の接触を防止します。

液体冷却では、ポンプやファンなどの装置を使用して積極的に熱を放出または誘導するため、積極的な冷却方法と言えます。

一部の熱管理システムでは、セルに直接接触する油やその他の誘電性液体など、直接接触媒体を使用します。これは安全性が低く、セルと周囲の環境との間の絶縁効果が低いため、主に非消費者向けEVで使用されます。

時間の経過に伴う冷却方法

現在では、温度をより適切に制御できるため、ほとんどのバッテリーはアクティブ冷却を使用して液体冷却されています。液体は空気よりも熱伝導率が高く(正確には数百倍)、温度管理が容易です。

EV革命の草創期には、バッテリー生産コストがはるかに高かったため、メーカーは生産コストを最小限に抑えるためにあらゆる手段を講じており、それがパッシブ空冷の魅力を増加させていました。しかし、この10年でバッテリーコストは減少し、より厳しい冷却要件を持つ急速充電が人気を集めています。その結果、パッシブ空冷技術は人気を失ってしまいました。

例えば2010年初頭、ほぼ同じ価格で航続距離の長い空冷式バッテリーの日産・リーフ、または航続距離は短いがより強力なアクティブ液冷式バッテリーを装備したシボレー・ボルトという選択肢がありました。アクティブ冷却で動作範囲が広い強力なバッテリーは、当時としては非常に高価でした。

アクティブ冷却が高価な理由の1つは、ヒートポンプ、熱交換器、循環ポンプ、バルブ、複数の温度センサーなど、より多くの構成部品があることです。しかし、冷却結果に対する信頼性ははるかに高くなります。

なぜEVバッテリーを冷却する必要があるのか

EVバッテリーにはバッテリーの寿命と性能において重要な、特定の動作範囲があります。68°Fから77°F(20°Cから25°C)の周囲温度で動作するように設計されています。バッテリー温度をより適切に制御すると、性能と寿命が向上します。

  • 動作中は、-22°Fから140°F(-30°Cから50°C)の温度に耐えることができます。 
  • 再充電中は、32°から122°F(0°Cから50°C)の温度に耐えることができます。 

バッテリーは動作時の発熱が多いため、動作範囲内に温度を下げる必要があります。高温(158°Fから212°F、または70°Cから100°C)では熱暴走が起こり、連鎖反応によってバッテリーパックが破損することがあります。 

急速充電時は電池を冷やす必要があります。これは、バッテリーに流れる高電流によって余分な熱が発生するため、その熱を放出して高い充電率を維持し、バッテリーを過熱させないためです。

また、温度が低すぎる場合や、パフォーマンスを向上させる場合は加熱する必要がある場合もあります。例えば、32°F(0°C)未満でセルを充電することはできません。あるいは、テスラのような企業は、高パフォーマンスを実現するために一部のモデルではバッテリーの予熱を導入しており、停止状態から時速60マイルまで2秒未満で到達します

熱のマネジメントにおける課題

EVバッテリーの最も一般的な熱マネジメントの課題は、液漏れ、腐食、詰まり、気候、および経年劣化です。ご存じのように、液体冷却システムには、空気冷却システムにはない課題があります。

  • 液漏れは液体冷却システムでのみ発生するもので、パイプの接続部にはバッテリーの経年劣化に伴う液漏れのリスクがあります。液漏れが起こるとバッテリーの性能と寿命が急速に低下します。湿度がバッテリーの電気絶縁体に達した場合、EVの動作が停止する可能性すらあります。バッテリーモジュール、相互接合、ポンプ、バルブはすべて健全な状態に維持しなければなりません。
  • 腐食は液体冷却システムでのみ発生し、その冷却プレートは液体グリコールが古くなるにつれて腐食する可能性があります。そのため、車両のメンテナンスの一環として冷却液を交換する必要があります。 
  • 詰まりは、バッテリー内で液体が移動する数百の小さなチャネルに存在するリスクです。
  • 世界各地の気候は、バッテリーにさまざまな熱的課題をもたらします。例えば、炎天下での長時間の車両放置や、冬期における極端に低温の場所で生活することなどがあります。バッテリーは常に幅広い温度範囲に耐える必要があります。これを実現するには、車両を使用していないときでもバッテリー冷却システムが有効である必要があります。
  • 経年劣化は熱マネジメント上の問題を引き起こすため、計画的に対処する必要があります。バッテリーが古くなると、多くのエネルギーが熱として失われてしまいます。熱マネジメントシステムは、最初の数年間の一般的な条件だけでなく、バッテリー寿命の後半に発生する厳しい条件のために構築されなければなりません。

バッテリーの熱マネジメントシステムの例

次の図は、有名な電気自動車の熱マネジメントシステムを表しています。

日産

詳細情報:日産・リーフの冷却システム

 

シボレー・ボルト

詳細情報:シボレー・ボルトの冷却システム

 

テスラ・Model 3

パウチ型電池の内部構造

詳細情報:テスラModel 3の冷却システム

バッテリーの熱マネジメントを改善するレーザー

新しい構造体バッテリーのトレンドでは、セルは車両のシャーシに直接接合されます。ギャップフィラーや接着剤などのサーマルインターフェースマテリアル(TIM)を使用して、バッテリーの温度を調整しながらバッテリーセルと冷却板を機械的に接合します。

レーザー技術は、ますます厳しくなる冷却要件を満たすために、バッテリー製造の不可欠な部分となりつつあります。 

  • レーザークリーニング:TIMは常に接合された状態でなければなりません。接着品質と耐久性を向上させる最善の方法は、接合する部品を適切に洗浄することです。レーザーは、この目的を達成するための高速で正確かつ効率的な方法です。
  • レーザーテクスチャリング:熱伝達は、熱を伝達する材料の表面積に依存するため、表面積が大きいほど熱伝達が潤滑になります。レーザーは表面にテクスチャリングを施し、熱伝達を改善する粗さを生み出すことができます。
以下の動画では、レーザーを使ってバッテリー表面の前処理をする方法を紹介しています。
 

 

電気自動車のバッテリーが新しい性能を得ていくにつれ、自動車メーカーは熱マネジメントと冷却の最適化をこれまで以上に必要としています。レーザーは、EVメーカーがこのような目的を達成するのに役立つ重要なツールです。また、良好な電気絶縁性と安全性を維持しながら熱伝達を改善するために、TIMに関して多くの研究が行われています。

 

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Stéphane Melançon

バッテリーおよび電気推進装置の技術エキスパートおよびコンサルタントであるStéphaneは、フォトニクス、光学、電子工学、ロボット工学、音響学を専門とする物理学の学位を取得しています。EVの変革に注力し、電動バイク用の産業用バッテリーパックを設計しました。余暇には、あらゆる電気製品に関するYouTubeチャンネルを運営しています。